→紀伊國屋書店で購入 「時の廃墟」 先月のこと、ドイツのドレスデンの聖母教会の再建が完成したというニュースが流れた。式典にはメルケル首相も参列して、はなやかに祝ったようだ。写真をみると立派に修復され、周囲もぴかぴかだ。ぼくが五年ほど前にドレスデンを訪れたときは、まだ修復は始まったばかりのようにみえた。瓦礫の山に包まれて教会の残骸だけが残っていた。周囲も荒れた雰囲気が残り、廃墟のような場所も多かった。 ウッドワード『廃墟論』によると、ゲーテはこの教会からドレスデンを眺めて、ドイツでもっとも美しい都市だと言ったそうだが(p.308)、だからといって廃墟をなくして再建すればいいというものでもないだろう。東ドイツ政権は、廃墟の山を記念としてそのまま保護していたが、統一とともに再建を求める声が強くなったのだという。戦争がどのようなものであったのか、廃墟のままの教会のほうがはっきりと教えていたのではな