そのアイデアがひらめいたのは、オートメーション化された時計工場を見学していたときだった。ヒトのDNAには、ヒトゲノムと呼ばれる30億もの遺伝情報が書き込まれている。1970年代の終わりごろ、すべての解読には300年かかるといわれていた。 ▼「DNA自動解析装置」なら高速化できる。和田昭允(あきよし)東大名誉教授の構想は、やがて国際的なプロジェクトとして具体化し、2003年4月、解読完了が宣言された。ただ、解読に参加した6カ国のなかで、日本の貢献度は6%と、米国(59%)、英国(31%)に水をあけられた。 ▼その3年前には、クリントン米大統領が、解読の成果をたたえる会見をホワイトハウスで行い、ブレア英首相も衛星回線を通じて加わっている。米英両国の主導を、世界に示す政治的セレモニーだった。 ▼先頭を走っていたはずの、日本の影が薄くなったのはなぜか。学界内の対立と官僚の無理解が背景にあった。日米