世界的なクライマー・山野井泰史。未踏の巨壁にソロ=単独で挑むというスタイルから、かつて「天国に一番近い男」とも言われた。2002年には、ヒマラヤの高峰ギャチュン・カンの北壁に挑み、壮絶な登山の果てに生還したものの、手足の指10本を失った。その山野井が人生最大の目標と定めた巨壁がある。「ヒマラヤ最後の課題」と呼ばれ、世界第5位の高さ8463メートルの頂上に突き上げるマカルー西壁。超高所にオーバーハング(垂直以上に突出)した岩壁帯があり、その恐ろしいほどの迫力は、挑戦するトップクライマーたちの勇気をも打ち砕く。半世紀を経て蘇る巨壁との闘いを語る山野井に、人生の目標を探すためのヒントが見えた。 今年6月、伊豆半島の、とある洞窟。クライマー・山野井泰史は、壁を相手に1人格闘していた。岩にかけた右足の靴は、左足よりも小さい。19年前のヒマラヤ登山の末に、凍傷で全ての指を失ったためだ。両手の指のうち5