前半では、おもに、蜷川幸雄さんと歌手としてのわたしについて書いた。後編では、女優として、蜷川さんの現場に立ったときの、思い出と感じたことを書こうと思う。そしてその後のことも。 蜷川さんが、チェーホフの「三人姉妹」の、三女イリーナの役を、とオファーをしてくれたときは、天にも昇る気持ちであった。まさか、というか。メインキャ ストだったし、わたしにも、京子やアイドルの方のような華があるのかと、恐る恐るだが思えたし。そのときは、まだ緊張というものはなかった。劇場は今はなきセゾン劇場で、小劇場で演劇をやっていたわたしには、大きく感じた。それくらいのキャパの劇場は、歌手としてなら、幾らもあったが、マイクを使わない、 というのは全く違う。そして、ふと思った。 蜷川さんは、大きな賭けをなさったんだ、と。わたしを大きな舞台で使う、という(経験でいうと、子役のときに新橋演舞場で出たことがあっただけであった)。