人生ではじめて猫をまじまじと目の真ん前で眺めた日がその猫がうちにやってきたちょうどはじめの日で 小さな籠におさまってやってきた猫はしかしすでに堂々とした体躯で、四国銘菓のような姿で堂々と眠っていたので一六と名づけた 名が音をたてて天井から降ってきて頭にぶつかったような日だと思いながら籠の中で眠る猫を眺めて眠った いつかどこかで、もしまたなにかあずかり知らぬ縁がありもう一匹猫が我が家にやってくることがあれば そのときはまだ知らぬ彼か彼女かをタルトと名づけてやろうかともくろんだがその日はとうとうやってこず 一六はただ一匹のただのなんでもない一六のまま14年ここで暮らして去った すとんと切り落としたようなきれいに丸い甘いお菓子のような寝姿を思い出している
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