「欲望」について、茂木健一郎氏は語ります。 ……………………………………………………………………… 突然、何の脈絡もなく、『論語』の「七十而従心所欲、不踰矩」という有名な言葉が心の中に浮かんだ。私は雷に打たれたような気がした。この「七十従心」と呼ばれる文の中で、孔子は、とてつもなく難しく、そして大切なことを言っていることが、その瞬間に確信されたように感じたのである。 人間の欲望は、いかに生きるべきかという倫理性と決して分離できない。倫理ほど、難しい問題はない。物体を投げれば、放物線を描いて飛んでいくといった単純な法則では、人間の欲望のあり方は記述できない。正解がないかもしれないからこそ、人間は悩む。今も悩み続けている。 人間の行動は、どのようにして決定されるのか? 人間は自由な意志を持つのか? それとも、利己的な遺伝子に踊らされる哀れな存在でしかないのか? 資本主義が、人間社会の最終