俺はうどんを作りたかっただけだ 思えば、俺の人生はうどんを作るためにあった 子供の頃、普段は寡黙な父が週末に唯一楽しそうにしているのがうどん作りだった 勤務先の工場から盗んできたらしい小麦粉を必死にこねて、母と俺に振る舞った もっぱら、後片付けをするのは俺だった。粉を掃除するのが1番大変だった記憶がある。少しでも拭き残しがあると殴られた。そしていつか俺もうどんを作ってやりたいとよく思ったものだった そんな俺ももう30代後半。人生を無駄にするつもりはない。妻を説得し、うどんを作るために退職した。借金をして店を立ち上げた メニューは攻めのかけうどん一択。これだけで人を呼べる自信があった だが運悪く、時はコロナ禍。俺の店はすぐに首が回らなくなり、潰すことになった 泣きついてなんとか元の職場にも復職できてまた一からやり直し。とりあえず、借金を返し終えたらまたうどん屋を開きたい