夜は若く、その男も、そしてその女もまた若かった。 男はトレンチコートを着たままひとりその店のカウンターに座っていた。店の一番奥の席、それが男のお気に入りだった。やがて扉が開いて女が現れた。いつもと同じように何も言わず、男のとなり一つ席を空けて座った。 これがいつもの二人の夜の風景であった。 ービールをお願い。 女は長い髪をかき分け横を向くようなしぐさで注文した。そのときに男と一瞬だけ目が合った。 男はすかさず話しかける。 ー今日はいつもより遅いんだね。 ーええ、月末はちょっと忙しいのよ。 相変わらずの無表情で答える女。あなたにはわからないでしょうけど、というニュアンスを語尾ににじませていた。 ーマスター、彼女にお新香をお願い。会計は僕のほうにつけていいから。 ーマスター?・・・はい、わかりました。 ービールだけじゃさびしいかなと思ってさ。 ーありがとう。いただくわ。 やがて他のお客もちらほ
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