「思いは入れない方がいい」 感情移入をしない方がいいという意味だ。その言葉どおり、ハルさんの唄や段物(語り物)は、抑揚やビブラートもなく、まっすぐに鼓膜をつき破る。「葛の葉子別れ」「石童丸」「巡礼おつる」「小栗判官照手姫」……。それでいて心をゆさぶらずにはおかない。 瞽女(ごぜ)唄継承者として国の重要文化財になった長岡瞽女、小林ハルさんは今年103才。拙著『鋼の女―最後の瞽女・小林ハル―』の取材ではじめて会った時は86才であった。 140センチ足らず、白髪を短く切りそろえたその女の前で思わず正座した。自らに厳しく生きて来た品位と風格が滲んでいる。 懸命に唄うその声は、ハルさんの生活そのものであり、生きて来た証である。 「思いを入れない」でひたむきに唄い語る姿は、本物の芸能者に通じるものだ。 「いい人と歩けば祭り、悪い人と歩けば修業」 この女は時々哲学的なことばを口にする。生後100日でそこ
リリース、障害情報などのサービスのお知らせ
最新の人気エントリーの配信
処理を実行中です
j次のブックマーク
k前のブックマーク
lあとで読む
eコメント一覧を開く
oページを開く