冬の日曜日、風が澄み切っていて気持ちがいいので、新しい音楽でも聞いてみようとジャズの棚の前に立った。手に取ったカバー・アルバムには日本語の楽曲も含まれていて、『蘇州夜曲』といえばどこかで聞いたことがある。戦時に満州で作られた国策映画じゃないか。女の声の風合いをヘッドホンで確かめてから買い物籠に入れた。 傾きはじめて夕日になりかけた赤い日差しに照らされながら、遠回りして海岸線に沿って走らせる。カーステレオから、細やかな息遣いを行き渡らせた日本語詞が洩れてくる。 花を浮かべて流れる水の 明日の行方は知らねども 水に映した二人の姿 消えてくれるな何時迄も 同じ日に、きみも同じ曲に聴きいっていたことをwebの便りで知った。もう忘れてしまいそうな昔話だ。深刻な紛争に巻き込まれて、どうしても連絡をつけねばならないと手を尽くした内の二人がJのイニシャルで、不運なことに二人ともが予感したとおりぼくとは立場