心理療法はイデオロギーと無縁でいられるのでしょうか? 心理療法に内在するイデオロギーについて、そして心理臨床における倫理とは何かについて山崎孝明氏に解説いただきました。 はじめに 本稿は特集「心理学と倫理」の一部である。だが、「倫理」という語は多義的で、このテーマだけでは論じることはそう限定されない。 私には「心理臨床とイデオロギー」というタイトルで原稿執筆が依頼された。この特集タイトルでこの依頼が来る背景には、「イデオロギーに基づいた心理臨床は非倫理的/反倫理的なのではないか」という疑問があるということなのだろう。 私たちの仕事は、社会的に望ましい人間を作り上げることなのだろうか。普遍的な善なる人間像にクライアントを近づかせることなのだろうか。それとも、心理職の持つイデオロギーに基づいて描かれた治癒像にクライアントを近づかせることなのだろうか。そうしたことを本稿では問うてみたい。そのため