【注:今回の話はややもすると『四月一日』よりも怖いので、読む人は心臓叩いてしっかり準備してから読んでください】 僕が大学生になって越してきたY県A市には一つの俗説が噂されていた。 A市にある私有地N山林、そこで度々見かけたとされる不可思議な炎、「歳火」(としび)。 N山林は大きめの野球場くらいの規模なのだけれど、その中には建物など一つもなく、だから炎のようなものが発生するはずもない。また、かなり緊密に樹木が林立しているので、キャンプなどを設営することも不可能だろう。つまり、実際にはあり得ないのだ、炎がそこに存在するというのは。 しかし、この土地ではずっと以前より歳火の発生が確認されてきた。 いや、厳密に言えば、存在する、とされてきたのである。 なぜこんな歯に物の詰まったような言い方をするかと言えば―― 「歳火を見たヤツはな、全員発狂するらしいんよ」 僕がY県に引っ越してまだ間のない頃、この