ある色川大吉考──「昭和」との格闘(後編) みずからの主体を現わしつつ歴史に向き合い、そのことによって、歴史の主体としての「民衆」を描き出す歴史を提供 3.方向選択と総括 (1)柳田国男の方向へ 色川自身は1985年ころと認識しているが、みずからその歴史学―「歴史叙述」を転換させていく。色川にあった、AとBとを接合するあらたな方法と叙述を試みる営みと言い得る。入口となるのは、柳田国男であった。「戦後歴史学」を経て来た歴史家たちは、敏感な歴史家であるほど、ある段階で柳田に入り込む傾向がみられる。色川も例外ではなく、『柳田国男』(講談社、1978年)を著し、柳田国男との格闘をおこなう。「日本民俗文化大系」の第一巻であり、居並ぶ民俗学者たちに加わっての「柳田国男」の執筆であり、色川の意気込みが感じられる。 すでに色川は、戦時期に柳田を読んでいたが、柳田と日本浪漫派は「その情緒」がほとんどかわらず