春の風がそよぐ放課後、俺は校門の前で立ち止まった。 視線の先には、満開の桜の木。 ちらちらと花びらが舞い落ち、まるで何かを誘うように地面に降り積もっている。 「……綺麗だな」 独り言のつもりだったが、近くにいた一人の女子がふっと微笑んだ。 「そうだね」 声の主は、同じクラスの高橋 咲だった。 彼女はいつも成績優秀で、しっかり者。 クラスではあまり目立たないが、その落ち着いた雰囲気が魅力的だった。 「……帰り道、一緒に歩く?」 「え?」 咲は少し驚いたように俺を見たが、すぐに「いいよ」と答えた。 俺たちはゆっくりと桜並木を歩き始めた。 「桜、好きなの?」 「うん。毎年、この時期になると、なんとなく特別な気分になるんだよね」 「へぇ、意外だな」 「意外?」 「なんというか……咲って、いつも冷静で、季節とかあまり気にしなさそうなイメージ」 「ふふっ、そう見えるかもね。でも、意外とロマンチストなん