板間に首が一つ置かれていた。禿頭(とくとう)の男の首だ。 往時は才気に任せてしゃべり散らかしていた男はすべてを悟ったように目と口を閉じている。まるで高徳の僧のようだ。 いや、私が知らなかっただけでこの男は自分の寺ではこのようだったのかもしれない。歴史に名を遺す人間の本当の姿など、同時代に生きていても見通せるものではない。 我が家の外交僧であり、名刹安国寺の住職であり、そして将来伊予六万石の大名になるはずだった男の首。関ヶ原より十八年も前に恵瓊が死んだ。 それは私が歴史を変えてしまったことの明白な証だった。 「確かに羽柴に内通しておった」 沈黙を破ったのは細身で神経質そうな男だ。確か年齢は五十くらい。浅からぬ縁のある男の死を前に表情は冷静で声は冷厳だった。 「元は武田一族、さもあろう」 苦々しげに吐き捨てたのはこの中で一番年上にもかかわらず、衰えぬ筋骨を誇る男だ。口調に反して表情には哀れみが