──退社して、東京にいらしたんですよね。 万城目:そうです。祖父が東京にボロボロの雑居ビルを持っていて、母が相続して大家になっていたんです。一番上の階が空いていたので、そこにターゲットを定めまして。親には「エリートだけが行ける本社の経理課に栄転しまして。通勤が楽なんで、あの部屋使っていいかな?」と言ったら親は「まあ、いいよ」って。それで住民票も移して引っ越して、雑居ビルの管理人をやるというテイでいようと思ったんで雑居ビルの店子の皆さんにも挨拶して、それから実家に帰ってですね、「辞めちゃった」と言いましたよ。ひどい話ですよ。でも、2年という期限も伝えたし、誰にも迷惑をかけないので、あんまり文句は言われなかったですね。 ──そこからの生活が、『バベル九朔』に反映されていますね。雑居ビルの管理人をしながら小説を投稿している主人公がビルの中で異世界に紛れ込むという話でしたから。 万城目:反映されて