島 政大 木更津剣客集団、義勇隊。幕府陸軍、撒兵隊(さっぺいたい)。将軍家の劣勢を挽回すべく房総半島に割拠した徳川義軍府。彼等は何を思い、いかに戦ったのか。時勢の風が吹きつける江戸湾岸に、戦いの旗がひるがえる。市川・船橋戦争、五井・姉ヶ崎戦争、横田戦争へと突き進んだ名もなき群像の青春録。 語られなかった幕末史が、壮大な叙事詩となってよみがえる。絶賛連載中! 第一章 きみさらず 六月のそよ風が、川べりの青葉を揺らしている。花嫁を乗せた平底舟を一目見ようと、矢那川のほとりに人がひしめいていた。木更津界隈の老若男女が一堂に会したかのようなにぎわいである。 うららかな西日に包まれて、嫁入り舟がゆっくり流れてくると、人々は歓声を上げ、川の両岸から盛大な拍手が沸き起こった。 朱墨で「寿」と書かれた台提灯が舳先に掲げられ、船底に敷かれた真紅の毛氈が鮮やかである。船梁に腰を掛け、白い練帽子を深くかぶった