通された応接間で、男性はひとり、その屋敷の主人の到着を待っていた。底冷えする1月下旬の、重く静かな午前中。部屋がたたえる静謐な雰囲気が緊張をあおる。──外務省のキャリアとして、さまざまな外交の現場に立ち会ってきた。国内外の要人を接遇したし、海外の実力者とハードなネゴシエーションをしたことも一度や二度ではない。ただ、相手が“この方たち”となると話は別だ。 メガネの奥の目はどこか落ち着きがない。男性は恰幅のいい体を小さくして永遠にも思える時間を待っていた。張り詰める空気が突然揺れて、“この方たち”が部屋に入ってきた。秋篠宮ご夫妻だ。秋篠宮さまは、見慣れた通りのポーカーフェイス。紀子さまにいつもの微笑みはない。 男性がニューヨークの総領事に任じられたことを報告すると、ご夫妻は、神妙な面持ちで小さく頷かれた。その頷きに込められた意味は途方もなく大きい。もちろん“心当たり”はある。 ニューヨークに暮