「日本古書通信」今月号に川島幸希「『月に吠える』の論文——弥永徒史子さんの思い出と共に(前編)」が出た。これがまあすごい。 牧義之『伏字の文化史』(森話社)に対する反論の形をとりつつも、学術的な面とは別に、古書の世界の深淵を垣間見せてくれるという意味で非常に興味深かった。 川島氏は一定の評価をしつつも同著について〈牧氏の推論の根幹を揺るがしかねない一つの重大な疑問点と、看過し得ない二つの明白な誤り〉を指摘する。牧氏の内閲と国会図書館所蔵本奥付書き入れを根拠とした新説に、反証として、装幀者である恩地孝四觔の日記「愚人日記」(田中清光『月映の画家たち』筑摩書房に収録紹介)を挙げ、〈「愚人日記」の恩地の記述を覆さなければ『月に吠える』の内閲は机上の空論と結論付けざるを得ない〉と問題の在処を指摘する。 おそらくメインであるところの「内閲」制度とその実体といったメディア史的観点からの問題や文献的問題