谷川渥氏:西洋の芸術論は基本的に鏡モデルだと思うのです。レオナルド・ダ・ヴィンチやアルベルティの芸術論を読むとわかりますが、芸術家は鏡の様でなければならないと言います。心を静かにして外界をうつし、そして描かれた絵が本物そっくりであるかどうかを問題にする訳です。芸術理論の中でそういう鏡のメタファー(metaphor)とかというものがルネサンス以降、非常に積極的な意味で組み込まれてきます。組み込まれていくばかりではなく、実際に絵画の中に鏡も登場しはじめます。画像と鏡像というものを、パラレル(平行的)に考えた理論も色々と出てきました。「鏡」が絵の中に登場する時は、こちら側に向けている人物のアスペクト(aspect)以外のアスペクトを見せることにもなるでしょう。たとえば女性が鏡をもって化粧をしている。後ろ姿がこちら側に描かれていても鏡の中に鏡像として女性の顔が見える。「鏡」を登場させることによって