憤懣(ふんまん)やるかたない番人は、花房職秀の無礼っぷりを豊臣秀吉に訴えた。 「かくかくしかじか、まったくとんでもないヤツでしてっ」 聞いているうちに秀吉の青筋が立ってきた。 楠木正虎も楢村玄正に聞いた。 「おまえは一部始終を見ていたのか?」 「え、ええ。まあ大体そのような感じで……」 秀吉はメラメラ立ち上がった。 低身短足のため、立ってもあまり代わり映えがしない。 「玄正。秀家を呼んでこい!即呼べ!すぐ呼べっ!」 「はあ!ただ今!」 玄正はただちに主君宇喜多秀家を連れてきた。 「秀家、参上いたしました」 「来たか」 秀吉はあごの付けヒゲを引っぱりながら問うた。 「花房職秀とは、どんな武将じゃ?」 「一言で申せば、豪傑でございます」 「豪傑ゆえに、無礼な面も多いであろうな?」 「はあ、確かに……」 「ヤツが何をしたか、玄正から聞いたか?」 ブチッ! 切れたのは付けヒゲである。 「はい。うか
ジャーン! 銅鑼(どら)が鳴らされ、闘酒会が始まった。 藤原忠房が巨杯に酒を注がせ、大戸たちに勧めた。 「一杯目、始めます。どうぞ」 飲む順番は明らかではないが、官位が低い者から飲み始めたのではあるまいか。 ということにして、まず平希世が杯を口にした。何口か飲んで少々顔色が変わったが飲み干した。 「濃いっすねー!」 忠房が嬉しそうに笑った。 「特別仕様ですから~」 続いて藤原伊衡も飲んだ。 「うん。美味なるかな」 やや顔が赤らんだが、それでも涼しげでさわやかであった。 「キャーキャー!」 女官たちのほうがよほど酔っていた。 さらに良岑遠視が、 「うまーい、もう一杯!」 と、飲み干し、藤原経邦はゴクゴク音を立てて完飲した。 「プハーッ!何杯でもどんどん来いやー!」 経邦がほえればほえるほど、観客はさめた。 藤原俊蔭、藤原兼茂、源嗣、藤原仲平も難なく飲み干した。 「うん。めっちゃ濃いが、うまい
「続く二人目の登場です!兵部大輔(ひょうぶのたいふ)源嗣(みなもとのつづく)!」 嗣は嵯峨(さが)源氏。左大臣源融(とおる)の孫で、現職政界ナンバースリー中納言・源昇(のぼる)の子である(「嵯峨源氏系図」参照)。 「ガンバレよ、息子!」 昇も自邸である京極河原院から応援に来ていた。 そう。藤原褒子が囲われている、あの秘密の邸宅である。 「三人目は右近衛少将(うこのえのしょうしょう)藤原兼茂(かねもち)!」 兼茂は藤原北家。利基(としもと)の子で、兼輔(かねすけ。「2005年7月号 詐欺味」参照)の兄である(「藤原北家系図」参照)。 これより十二年後、兼茂は勤務中に飲酒中、脳卒中で死んでしまうのであった。 「四人目は同じく右近衛少将・藤原俊蔭(としかげ)!」 俊蔭は別名後蔭(のちかげ)。藤原北家出身で、中納言有穂(ありほ)の子である(「藤原北家系図」参照)。 観客は沸いた。 「すごいなー!と
天平勝宝九歳(757)五月二十日、四十年ほど前に藤原不比等らが完成させた古代国家の基本法典「養老律令」がいまさらながら施行され、藤原仲麻呂が「紫微内相(しびないそう)」なる新設の役職に就いた。 これは仲麻呂の兼職紫微令の権限を強大化させた准大臣であり、軍政も統括した軍事総監でもあった。 橘奈良麻呂は不審がった。 「何?軍事権も掌握?それなら兵部卿を兼ねている私の立場はどうなるのだ?」 疑問を持つ間もなかった。 六月十六日には奈良麻呂の兼職は兵部卿から右大弁(うだいべん。「古代官制」参照)に替えられてしまったのである。兵部卿の後任は、これも仲麻呂に近い参議兼紫微大弼の石川年足(いしかわのとしたり)。文政三年(1820)摂津真上(まかみ。大阪府高槻市)で発見された彼の墓誌は有名である。 奈良麻呂は憤った。 「仲麻呂め!私が鬼だということに気づき、金棒を取り上げたのか!」 また、奈良麻呂の同志で
橘奈良麻呂は旧都・摂津難波宮(大阪市中央区)で客人を待っていた。 九州からの内密の客人である。 「奈良麻呂殿。お久しぶりですな」 客人は覆面をかぶっていた。 「あなたのほかに誰もいないであろうな?」 「もちろんです」 「なら、取るか」 客人は覆面を取った。 それは藤原仲麻呂によって大宰府に左遷された大宰大弐(だざいのだいに。大宰府次官。「古代官制」参照)吉備真備であった(「2008年10月号 辞任味」参照)。 「用心深いですね」 「天知る地知る我知る人知る。用心に越したことはない。――で、例のものは用意できましたかな?」 「ええ。鴨角足(かものつのたり)に作らせました」 「何!角足といえば、仲麻呂の側近の一人ではないか。そのような者、信用できるのか?」 角足は紫微大忠(しびだいちゅう。紫微中台次官)。仲麻呂の直属の部下であり、左兵衛率(さひょうえのかみ。左兵衛督)たる宮城警備隊長も務めてい
宴後、藤原忠実は殿上人一同を引き連れて鳥羽上皇に申し上げた。 「備前守・平忠盛が真剣を持って宴に乱入しました。また、平家貞なる身分の低い凶器を持った郎党を無断で宮中に潜ませてもいました。おそらく、殿上人の誰かを殺そうとたくらんでいたのでしょう。あるいは標的は院であったやもしれません」 「なんと!」 仰天する鳥羽上皇に、忠実は迫った。 「このような無礼はいまだかつて聞いたことはありません。いいえ、これは無礼ではなく、謀反そのものです!即座に忠盛を解任し、流刑にすべきかと!」 殿上人たちも口々に言った。 「恐ろしや!恐ろしや!」 「やはり物騒な武士に昇殿を許すべきではなかったのでは?」 「どうか忠盛を辞めさせてください!」 「マロたちはこのような怖い怖い人と一緒にお仕事はできまへんて!」 鳥羽上皇は忠盛を呼びつけた。 「かくかくしかじかだが、どういうことか?」 忠盛は弁明した。 「まず、郎党の
リリース、障害情報などのサービスのお知らせ
最新の人気エントリーの配信
処理を実行中です
j次のブックマーク
k前のブックマーク
lあとで読む
eコメント一覧を開く
oページを開く