東京国立博物館で開催中の特別展「写楽」は、写楽の美術家としての真髄を味わってもらおうと、同一作品の異なる摺(す)りや、他の絵師が同じ題材を描いた場合を比較できる構成が特徴だ。本展から見える写楽の魅力とは何か。現代美術家・山口晃さん(41)=写真=に語ってもらった。 (三沢典丈) 今回気づいた写楽の魅力の一つは、目の描写です。大首絵の一部に見られる金壺眼(かなつぼまなこ)、つまり黒目がちで輪郭線がはっきりしている目に特徴的です=図1。切れ長の目でも、内側にえぐり込むような太い輪郭線で描く一方で、下まぶたは薄い線で描く。これが見る者をぐいっと引き込む。他の浮世絵とは違います。 しかもこの目はどこも見ていない。喜多川歌麿の描く人物は必ずどこかを注視していますが、写楽のは描かれた当人の意識が飛んでいるような状態。ところが、これがもう一つの特徴である、奥行きのある空間作りに役立っているのです。 大首