作者: 二歩 ウェブサイト: puts' 文字数: 1000 ○予選通過作品 後味の悪い事件だった。 嬰児誘拐。 昼過ぎから降り出した霧雨。ショッピングセンターの入口で、母親が折り畳み傘に手間取っている僅か数分の間に、ベビーカーに乗せられていたはずの娘が消えた。まだ首も座らぬ2ヶ月の乳児だった。4時間後、父親の職場に身代金2億円を要求する電話が入った。 状況から店頭で着ぐるみのアルバイトをしていた男――以前、被害者の父親の同僚だったことがあり、母親とも面識があった――が犯人だと断定されたが、事件発生から18時間後、県警に身柄を確保されたとき男の手元に娘はおらず、また共犯者の痕跡もなかった。誘拐の直後、娘をバラバラにして複数のゴミ集積場に捨てたと男は証言した。身代金が要求されたとき既に娘は殺されていたのだ。そして、犯人が逮捕された時点で遺体のすべてはゴミ焼却場の炉の中に消えていた。 「奥さん