それは、あまりにも美しい風景だった。コンクリートの巨大なアーチは、静かに、平安に、周りを威圧していた。その無機的な人造物が、なぜか自然に溶け込み、雄大な山の景色の一部となっている。 小学校のとき、国語の教科書に黒四ダムの話が載っていた。内容を思い出そうとしても、定かな記憶が戻らない。ただ1つ、ものすごい難工事であったということだけが、そのときから今まで、消えることなく私の頭に焼き付いている(黒四ダムは、完成後、黒部ダムが正式名称となった)。 電力不足解消のため想像を絶する難工事に挑む 1956年、黒部ダムの建設が始まった。すでに54年に神武景気が到来しており、56年の経済白書には「もはや戦後ではない」と記された。国民の間にテレビや洗濯機が普及し始め、この好景気がその後の高度経済成長につながっていくのだが、当時、それを妨げるネックが1つあった。電力不足である。 電力の安定供給は、国の発展の要