七十歳を過ぎたような学者の知り合いには、私はことあるごとに、自伝を書いてくださいと言うことにしている。学者の自伝は最近好きでだいぶ読んだが、何といっても学問的にも、時代の雰囲気を知る史料としても面白い。とはいえ、自伝であれ伝記であれ、「まんじゅう本」はどうもかたわら痛い。つまりキレイゴトに満ちた、誰それ先生は偉かった式のものである。 山崎正和は、自分で書くのではなく、数人の信頼する後輩学者によるインタビュー形式で、自伝をものしたと言えるだろう。パッと見たところ、これもキレイゴト本に見えるかもしれない。ところがどっこい、山崎はそんな人ではなかった。 十年くらい前に何回かに分けて採録され、内部ではすでに出ていたのが、やっと公刊されたらしいが、裏話が実に面白い。特に、山崎の論敵となった江藤淳が、大磯で開かれた吉田茂をめぐるシンポジウムに来た話はすごい。かねて加藤典洋が、この時の吉田茂批判以来、江