“その夜、誰もこっちを見ていず、誰もこっちを気にしていないバーで酔っ払ったぼくは、頼みというのは何かとタイラーに訊いた。タイラーは答えた。「おれを力いっぱい殴ってくれ」” ——チャック・パラニューク(池田真紀子訳)『ファイト・クラブ〔新版〕』(ハヤカワ文庫NV)より アメリカの作家、チャック・パラニュークの代表作に『ファイト・クラブ』(96年)という小説があります。99年にデヴィッド・フィンチャー監督、エドワード・ノートンとブラッド・ピット主演で映画化されたことで有名です。 表題となっている「ファイト・クラブ」というのは、男たちが集まっては1対1で殴り合いをするという秘密の会合です。この会合は、生きている実感を得られていなかった主人公「ぼく」がある日、自分とは反対のような生き方をしているタイラー・ダーデンという男と出会って殴り合いをしたことに端を発するのですが、その際の有名なセリフが、冒頭