冠詞は中世ヨーロッパの共通言語であったラテン語には存在しなかったし、英語をはじめとするヨーロッパの近代言語でも、最初から独自の品詞として存在したわけでもなかった。定冠詞は「あれ」を意味する指示形容詞から、不定冠詞は「一つの」を意味する数量形容詞から分離独立した後発の品詞である。このうち、定冠詞は古典ギリシャ語やアラビア語にも存在するが、不定冠詞は、近代の西ヨーロッパで発展した特異な冠詞である。不定冠詞の誕生は、西ヨーロッパで発展した個人主義と関係があると考えることができる。 1. 不定冠詞ヨーロッパ近代言語における冠詞の使い方には、似た面が多いので、本稿では、主として英語における冠詞の使い方を取り上げて、冠詞の機能を分析してみたい。まずは、不定冠詞である。 英語では、単数形の名詞に不定冠詞が付く必要条件の一つは、その名詞が可算的であることである。そして、可算的であるか不可算的であるかは、対