独りで、デスクトップPCに向かい、『PADDLE』の原稿を書いている。 新作映画のレビューをいくつか書いた。 そのあとで、インド映画の魅力を伝える特集記事を書いた。 いったん手を止め、両腕をグルグルと回し、肩の凝りをほぐそうとする。 ――きょう、戸部あすかさんが、まだ来ていない。 来てくれないと若干困る。 というのは、彼女に協力してもらいたいことがあったからだ。 もちろん、『PADDLE』の編集に関わることで。 だが……彼女は一向に来る気配がない。 過剰にひっそりとした、ぼくだけが居る編集部屋。 × × × …ついにノック音がした。 あすかさん、なのだろうか? ただ……あすかさんのノック音とは、なにかが違っている気もする。 こういうドアの叩きかたは……むしろ……。 ノックしたにもかかわらず勝手に編集部屋に入ってきたのは、 ぼくの天敵たる……浅野小夜子(あさの さよこ)だった。 「なにしに来