いわゆる「東京インディ」のバンド群が、関西のシーン、あるいはSoundCloudやBandcamp、ブログやソーシャル・メディアとの相互作用の中で、不思議でユニークな音楽を作っていた2012年の東京にFor Tracy Hydeは現れた。シューゲイズ、ドリーム・ポップ、ギター・ポップ、マッドチェスター、ブリット・ポップ、渋谷系から、はたまたアニメやゲームまでを養分にしていた彼らは、インターネット・カルチャーの申し子でもあった。そして、周囲のバンドが失速し疲弊しフェイドアウトしていった10年強の間、2016年のデビュー・アルバム『Film Bleu』の発表以降、着実に最高傑作を更新していき、ファンダムを国外に築き上げもした。 最後まで「青い」音楽を奏で続けたFor Tracy Hydeは、一方で自分たちの表現そのものを問い、自身の内面にも踏み込んでいき、その青さはどんどん深みを増していった。