まだテレビのない昭和の初め、子どもたちの娯楽といえば街頭紙芝居だった。その人気の火付け役となったのが、1931(昭和6)年に登場した「黄金バット」。ドクロの仮面をつけた正義の味方バットがナゾー率いる悪の組織と戦う物語は、今に続く変身ヒーローものの原点と言える。空飛ぶヒーローとしては米国のスーパーマンよりも登場が早かった。描いたのは永松健夫(1912-61)という人物。当時、東京高等工芸学校で図案を学ぶ学生だった。 永松健夫が描いた紙芝居「黄金バット」より(1931年ごろ 谷口陽子さん提供) その原画を見て驚かされた。当時の日本に存在しなかった超高層ビル群、巨大ロボット怪獣、UFOのような空中砲台、殺人光線、山脈を貫く地下鉄道、最先端ファッションに身を包んだ男女の姿。どれもリアルなタッチで細密に描かれ、とても子ども向けの紙芝居とは思えない未来的な空想科学の世界が繰り広げられている。 永松健夫