『タタール人の砂漠』ブッツァーティ 脇功/訳 岩波文庫 2021.5.10読了 現代イタリア文学の鬼才で、カフカの再来と呼ばれているブッツァーティさん。神秘的、幻想的で、不条理を描いたら右に出る者がいないと言われている。元々気になってはいて、堀江敏幸さんの小説の中にも登場したことで余計に読みたい意欲が高まっていた。この『タタール人の砂漠』はブッツァーティさんの代表作である。 期待以上に好ましい文体と漂う空気感があった。特段大きな事件は起こらないのに先が気になってしまうというこの感じ(作家にとってはこれ以上ない褒め言葉だと思う)を持てる数少ない作家の1人かもしれない。砂漠という乾いたタイトルなのに、何故だか私にはしっとりした作品に感じられた。 そのしっとりした重みを感じたのは、おそらく一度バスティアーニ砦に腰を落ち着けたら二度と他の世界に出られなくなったジョバンニ・ドローゴの生き方から連想し