今回は、GHQ焚書ではないが『利権物語』(昭和三年刊)の一部を紹介したい。文中に出てくる大倉喜八郎は大倉財閥の設立者であるのだが、わずか三十八歳の時に大きな利権を手にしている。こういう観点から経済史を描く本書は貴重だと思う。 明治の歴史を利権史観の立場からこれを見ると、なかなかに面白いものがある。 ある意味において、明治の富豪史は利権屋の歴史である。明治時代に蹴起し、あるいは明治時代に巨富を致したもので、いわゆる公的利権によってその産をなしたもの、尠少ならざるは、覆うべからざるの事実である。等しく明治時代の利権屋というも、その初期と後期とによって、大いに趣を異にしている。 即ち明治政府樹立の初期における公的利権は、多くは政府が能動的であって民間が受動的であるのに対し、後期以後の利権はその逆であることを特徴とする。維新から明治十年西南戦争前後までの明治政府の利権は、概して、政府が天降り的に民