林雄司 はやしゆうじ/1971年東京生まれ。デイリーポータルZ編集長。個人ウェブサイト「東京トイレマップ」「Webやぎの目」を手がける。主な著作に『死ぬかと思った』シリーズ。 父は亡くなるちょっと前まで子どもの頃から通っていた床屋に行っていた。生前、その店の話を聞いたことがある。 店の主人は手作りのうるか(鮎の内臓の塩辛)をくれるという。 「でも砂が入ってるから歯で濾して食べないとだめだ」 そう父は話していた。手作りらしいエピソードである。でもうまいんでしょ? と僕が聞くと、 「ものすごくしょっぱくて味なんてわからない」 と答えた。じゃあ床屋の腕がいいのか。そう納得していたら母が口を挟んだ。 「ものすごく下手。刈り上げなんてトラ刈りになっていたことあるもん」 なんだなんだ。なんでその床屋に行っていたのか。この話のぼんやりしたつかみどころのなさはなんだ。 でもそういう話に限って憶えている。現