ビロット氏は1990年代の終わりに、訪ねてきた農夫から「牧場の牛が次々と死んでいる」と聞いた。地道な調査を重ねた末、汚染源は米大手化学薬品メーカーの工場でつくられる有機フッ素化合物(PFOA)であることを突き止める。それは、テフロンの名で知られる、焦げつき防止加工のフライパンに使われていた。 PFOAは水も油もはじく特性があり、フライパンに限らず、防水スプレーやレインコート、カーペットといった日用品から、半導体や自動車部品、さらには航空機火災用の泡消火剤まで用途は幅広い。「台所から宇宙まで」どこにでもある、と言われるほどだ。 一方で、なかなか分解されず、環境中や人間の体内に蓄積されやすいため、「永遠の化学物質」とも呼ばれている。その代表的なものが、焦げつき防止のフライパンに使われていたPFOAだった(製品そのものの使用による健康への影響はない、とされる)。 『ダーク・ウォーターズ 巨大企業