雨中夜詣美人あるいは見立てが忘却されるとき ―見立てと日本人13 錦絵の創始者・鈴木春信の描いた「雨中夜詣美人」という絵がある。 もっとも、題名は「座敷八景」などと違って、後世になってつけられたもので、この絵が描かれた当時、どのように呼ばれていたかは定かでない。 浮世絵研究の第一人者である小林忠氏は、1973年に出版された『浮世絵大系2春信』のなかで、この絵を解説して、次のように述べている。 「横なぐりに降る激しい雨足もいとわず、それも提灯の火を頼りの夜半に女ひとり、何かを祈ろうして神社への道を急いできたのか。破れ傘からのぞかれるのは、まだ年若い乙女の顔だちだが、裾を乱し帯をなびかせたその姿は、風雨に抵抗する意外な強靱さを内に秘めている。一途に燃える恋の想いは、かよわい娘をこれほどまで大胆な行動へと駆り立てる。春信はそうした乙女ごころのいじらしさを描きたかったのであろう。」 春信の絵のもつ