1「補う」ことで生まれる面白さを持つ表現 1-1 私たちは、「補う」ことから逃れられない 私たちは生きていくなかで、与えられた情報をもとに、勝手に頭の中で「補って」しまうことから逃れることができない。有名な錯視に「アモーダル補完」というものがある。これは、例えば[図1]のように一部分が隠されている図を見たときに、隠れた部分を頭の中で補って、下にある図形は「長方形だ」と見えてしまう現象のことである。 [図1]アモーダル補完 [図2]補完の可能性 だが、この図の可能性を考えてみると、[図2]のように隠された部分がそもそも欠けていたり、破れたような形になっているなど、無数の可能性があるにもかかわらず、私たちはほとんどの場合、長方形というある特定の形をイメージしてしまう。 このように、何か与えられた手がかりを目にすることで、自分の頭を使って新しい情報を作り出してしまう知覚現象は「補完」と呼ばれてい
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