かつて本を前から順番に読んでいく、というごくあたりまえのことがほとんどできなくなってしまった時期があった。 気に入った本を買っても、なかなか本腰を入れて読む気になれない。拾い読みばかりしていて、一冊の本を読むのに時間がかかって仕方がない。 たぶん二十歳をすぎたころだったと思う。 『恋愛のディスクール・断章』をはじめて読んだのは、ちょうどそんなころだった。 でもこの本は前から順番に読んでいく必要のまったくない本だった。巻頭の文章のあとに続く断章はすべてテーマごとに独立し、タイトルのアルファベット順に並んでいるだけだ。「不在」「待機」「充足」「接触」「告白」「嫉妬」「やさしさ」……。そして無数の小説からテーマごとに「恋愛のディスクール」が集められている。 わたしは安心して、でたらめな順序で断章を読んでいった。 * この本の断章がアルファベット順に並べられている理由は、「ある種の順序が与えられる