本書の大部分は、シェイクスピアが別人だとか、実在しなかったとかいう説の当否を論じるもので、シェイクスピアのファンでもなければ大しておもしろくない。それより不思議なのは、一介の役者がどうやって、3万語もの語彙を使った高度な作品を40本も書けたのかということだ。当時の欽定訳聖書でさえ6500語しか使っていないのに、田舎の小学校を出たかどうかの座付き脚本家が、片手間であのように完成度の高い作品を本当に書くことができたのだろうか。 その謎解きの一部は、彼が子供のころから貴族の家に住み込みで働いていたらしいということだが、これは答として十分とはいいがたい。むしろ本質的なのは、第4部で論じられているように、シェイクスピアの作品とされている脚本は、ほとんど他人の作品の翻案だということだ。初期の作品には署名さえなく、『ロミオとジュリエット』は同時代の作家の脚本を登場人物の名前まで借用しており、さらにこの