やがて、思い出になってゆく ライター・吉玉サキが、訪れた場所やそこで出会った人、感じたこと、考えたことを綴るエッセイ。 2022年12月30日、年の瀬の常磐線・磯原駅に人の姿は少なかった。改札前のベンチに男性が1人腰かけていたので、私は誰もいない窓辺までスーツケースを引きずっていき、母に電話をかけた。 「今、磯原駅。さっきまでKさん(夫)の実家にいたんだけど出てきちゃって……。これから町田に戻る。明日、札幌行きの航空券を取ったの。実家で年越ししていい?」 「もちろん。あなたが町田で1人で泣いているより、実家に帰ってきてくれたほうがよっぽどいいわ」 駅に来る前に事情をLINEしていたせいだろう、母はすんなりと飲み込んでくれた。 通話を終えて、改札前の大きなベンチに座る。 どうしてこんなことになってしまったんだろう。 ほんの24時間前の自分は、夫の実家で年越しをする気でいた。けれど昨夜、急に「