こんな話がございます。 世に深山幽谷ナドと申しますが。 日の本第一と申しますト、やはり越中富山の黒部一帯でございましょう。 飛騨の峰々を、斧で真っ二つに切り裂いたような深い谷。 そのあまりの険しさゆえか、辺りの山は立ち入り自体が一つの禁忌でございます。 今でも、加賀の奥山廻りのお役人と、その他には近在の杣人――木樵ですナ。 これらを除きましては、山へ入ることが許されておりません。 黒部に限らず、山には掟というものがございまして。 まず、山の神というのは女でございますから、これに嫌われてはなりません。 よく女人禁制などと申しますのも、元はこれが理由の一つです。 神とはいえ女ですから、どうしてもそこは嫉妬深い。 また、山中で見聞きしたことは、決して他言してはなりません。 これも古くからの戒めとして、よく知られるところでございます。 雪女や鶴女房が、自身の素性を頑なに隠したがりますが。 あれも、