これから書く信じがたいようなことは、すべて田中清玄が本書で語っていることだけである。ぼくは何も手を加えない。インタビュアーは毎日新聞社の大須賀瑞夫で、金大中事件などを追いかけた筋金入りのジャーナリスト。すばらしい編集構成だが、おそらく田中清玄の言葉にはほとんど手を入れていないだろう。「あとがき」によると、田中清玄自身は丹念に加筆訂正したようだ。 内容を紹介する前に世間で流布していた情報を書いておく。いったい田中清玄とは何者かということだ。本書が刊行されるまでは、こんなふうに憶測されていた。 戦前は武装時代の日本共産党の書記長で、その後に熱烈な天皇主義者に転向した。その昭和天皇に敗戦直後に出会って退位されないよう奏上し、天皇と親しく1時間近く話している。60年安保のときに全学連に巨額の資金を提供したらしい。石油危機のときにはアメリカの意向にさからって中東の石油を日本に持ちこんだ。禅僧の山本玄