フランスの啓蒙家、ボルテールに《カンディード》という小説がある。これはライプニッツあたりの楽天主義批判を目的に著されたものだが、とにかくも主人公カンディードに降り掛かる災難の数珠繋ぎが圧巻で、今日ではむしろブラックユーモアの古典としての意義を有している。 フランシス・フォード・コッポラ監督《地獄の黙示録》の舞台裏がまさにこの《カンディード》であった。悲惨に継ぐ悲惨の数々。悲惨のスペクタクルとでも云おうか。これほどに悲惨な舞台裏を私は知らない。では、いったい何があったのか?。順を追って紹介することにしよう。 《地獄の黙示録》は、ジョセフ・コンラッドの小説《闇の奥》を映画化したものである。 《闇の奥》は数多くの映画作家に製作を断念されてきた「曰く付き」の作品であった。最初に挑戦したのはオーソン・ウェルズ。そもそも《闇の奥》はウェルズの最初の映画になる筈だった。しかし、製作費を恐れたRKOが降り