“シチュアシオン”(状況)とははなはだ便利なことばである。“状況”とつぶやくなり書き記すなりするだけで、なにごとかを語ったような錯覚におちいる。しかし、いうまでもなく、”状況”という記号のシニフィエ(意味内容)は各自の思想やイデオロギーに応じてさまざまに異なる。 サルトルが戦後長らく書きついだ〈シチュアシオン〉(状況論)は文字通り自己を取り巻く世界の“状況”を語り、そのなかにおいて自らの選択すべき立場を明らかにしようとするものであった。しかし、シチュアシオニストの場合には、当初“シチュアシオン”ということばはある角度から切り取った客体しての世界の姿ではなくて、自らの手で“構築"すべき一種の“主体的対象"であった。ただし、それはやがて客観世界の成り立ちの説明図式へと変化していく。その集大成がギー・ドゥボールのベストセラー『スペクタクルの社会」である。ドゥボールはそのなかで“スペクタクル"とい