とりわけ重要な象徴のひとつ りんごが悪魔の実なんて、と彼は言った。それほどおいしくもないじゃないか、あんなものと。僕はべつにりんごの肩を持つわけではないけれど、きらいでもないし、どちらかと言えばりんごはおいしいと思っていたからなにも言わなかった。 彼の家はキリスト教を信奉していた、彼の言葉をかりるなら、熱狂的に。ご存知だと思うが、と彼はここだけ妙に気をつかって注釈を入れる。『キリスト教の人にとってりんごというのは堕落の象徴のひとつだ。あの宗教には堕落の象徴がいくつもあるけど、りんごはその中でもとりわけ重要な象徴のひとつだ。あれを食べたせいでアダムとイヴは楽園を追放させられて、人類は原罪を背負うことになったんだから。』 りんごの出ない食卓 だから彼の家でりんごはこれまで一度もでたことはないし、彼が言うには「これからも絶対に出ることはない」。僕はその話を聴いて、キリスト教徒とはそういうものなの