手塚さんは当時40代半ば。睡眠は「月に8時間」といわれていたが、本当に3日くらい寝なかったという。旅館に缶詰になり、ふとんにもぐりこんで腹ばいになって目を近づけて描いた。カリカリ音が止まると、真佐美さんが隣室から「先生!」と声をかけて起こす。「ハイ!」と返事があり、カリカリ音が再開する。また止まる。「先生!」「ハイ!」 「終わるまで眠れないから、終わった時は10分くらい寝てもらおうと思う。でも、10分たたないうちに起きて、前よりもっとすごいスピードで描き始める。…これは見た人でないと分からないと思います」 勉強する暇などないはずなのに、何でも知っていた。映画もいつの間にか見ていた。アニメ「創世記」を制作した時は、「聖書を買ってきてくれ」と言われて新約聖書を買ってきたら「違う。旧約だ」と言われた。分厚い旧約聖書もいつの間にか読んでいて、はるか後年、遺作の「聖書物語」にも生かされた。 真佐美さ