文学とプライバシー──柳美里 著『石に泳ぐ魚』最高裁判決── November 1, 2002 [ 2002 ] ツイート 青柳武彦(GLOCOM主幹研究員) 2002年9月24日、最高裁判所は芥川賞作家・柳美里著の『石に泳ぐ魚』(新潮社)についての判決を下した。原告の主張どおり、この小説はモデルの女性のプライバシーを侵害していると認定し、第二審の出版差止めと慰謝料130万円の支払いを命じた判決を支持して、上告を棄却したものである。著者は「今回の判決は作家個人の問題を越え、日本における文芸作品の可能性はもとより、表現の自由を著しく制限するものといわざるをえず、慙愧に耐えません」(9月25日産経新聞)と述べて不満を表した。筆者は、最高裁判決を支持する立場で論評を加える。 『宴のあと』事件 文学とプライバシーの問題については、1964年に三島由紀夫著『宴のあと』をめぐる裁判で東京地裁が侵害を認