大島軍曹は即座に上官の「鶴の一声」に従い、 「では、列の最後尾にいる者から順番に刺突することにする。最後尾にいる者は前へ出ろ」 と怒鳴った。しかし、誰も前に出る者はいない。私たちの間にざわめきが起こった。列にビリにいるのは馬場二等兵にきまっている。その馬場はすっかり臆してしまって前へ出ないのだ。 「最後尾にいるのは馬場二等兵だな。馬場、前へ出んか!」 大島軍曹がまた怒鳴った。しかし、馬場は返事もしなければ前へもでない。たまりかねた亀岡兵長が馬場二等兵のもとへ飛んで行って、 「馬場二等兵、貴様、班長殿がおっしゃっていることが聞こえんのか」 と、馬場二等兵の胸ぐらをつかんで、前へ引きずり出した。 「さあ、銃剣を構えるんだ。そして標的めがけて突進するんだ。なにも恐れることはない」 亀岡兵長はいちいち馬場二等兵の手をとって、どうにか銃剣を構えさせた。 「突っ込め!」 兵長は馬場の肩を力一杯押した。