科学を学ぶ学生が必ず読むべき本を1冊だけあげるとすれば、私なら本書を選ぶ。私が学生時代に読んだのは岩波新書の青版だったが、久しく絶版になっていた。本書が文庫に入ったことは朗報だ。 『生物と無生物のあいだ』に感動した読者が本書を読むと、そのアイディアが基本的にシュレーディンガーのものだということがわかるだろう。福岡氏もそれを認めていて、「原子はなぜそんなに小さいのか?」という問いを本書から引用している。そして生物が「負のエントロピーを食べて生きている」複雑系だという洞察も、本書のもっとも重要な結論である。 本書の初版は1944年で、DNAの構造はまだ発見されていなかったが、染色体を「暗号」と考えて生命の謎を物理学をもとにして解き明かす記述は、ほとんどワトソン=クリックの発見を予言しているかのようだ。今ではゴミのような本ばかり出している岩波書店も、半世紀前には本書のような名著を出していたわ