その人は立っていた あれは、確か、私が学生の頃だったのか、酒を飲むことを覚えた時期だったと思うが、新宿の西口を歩いていて、その人を見つけた。 「私の詩集」。そんな風に書かれた小冊子を持ち、その人は立っていた。 ちょっと可憐な感じのする若い女性は、柱か何かの前に凛とした佇まいでいて、その周囲を、通行人の流れが取り巻いていた。どんなにあたりが騒がしくても、そんな俗世間を受け付けない超然とした美しさが、その人にはあったのである。あるいは、そんな風に、私は思い込んでしまったのである。 「私の詩集」という冊子を持って立っている、その女性を見たとき、まだ高校を卒業したばかりくらいの私は、とにかくドキンとしてしまって、実は目が離せなくなってしまった。と言っても、それは心の中の見えない目であって、現実の眼球は、彼女に惹かれていることを隠すかのように、あたりを落ち着きなくさまよっていたのである。 しかも、そ
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