今月の最大の収穫は、高橋弘希(ひろき)の新潮新人賞受賞作「指の骨」(『新潮』)である。著者は三十代半ばの若手だが、その端正な文体は豊かなイメージ喚起力を備え、それでいて抑制を崩すことなく、情動におぼれず、兵士たちの不毛な死という強烈な主題を精確に見つめている。とても若手作家のデビュー作とは思えない。 小説の主題は、これまた若手作家にはいささか古風にも思える、太平洋戦争時の南洋における日本軍の悲惨な戦争体験である。それを淡々と描いていく筆致には、いまどきのポストモダン的な奇想はなく、むしろ古風なリアルさに徹しているとも言える。ただし、派手な戦闘シーンはなく、大部分は「私」が収容された野戦病院の日常である。 ここでは兵士たちが将棋に興じたり、現地の住民と交流したり、といった平和な光景が時に繰り広げられるものの、彼らは皆、傷病に蝕(むしば)まれ、死を待つばかりとなっている。そして、衰弱した兵士た
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